地理学から観光研究へのアプローチ

観光学部観光学科教授 杜 国慶

2016/06/30

研究活動と教授陣

OVERVIEW

観光学部観光学科 杜 国慶 教授による研究室紹介です。

予想外の専攻と研究

中学高校時代は、数学に夢中で文系科目の歴史と地理が苦手だったため、大学受験は自然に理科系を選んだ。が、届いた合格通知を開けてみたら、南京大学地理学部とはあまりにも予想外の展開だった。不本意ではあったものの、「都市計画」という専攻は1985年当時の中国では将来性に満ちた新しい専攻で、南京大学の三大人気専攻とも言われていたので迷わず素直に受け止めた。

都市計画専攻とはいえ地理学部所属だったため、1年生の基礎科目は地質学、気候学、自然地理学で、いずれも興味のない科目ばかりだった。勉学には努力したものの、興味がなかったせいか合格ぎりぎりの低空飛行の成績もあった。2年生から経済地理や都市地理など人文科学の授業が始まると専門科目に興味を持ち始め、特に3年生の時に先生の研究の手伝いで英文文献の翻訳をする際に、ジャン?ゴットマン(Jean Gottmann)のメガロポリス(megalopolis)の著書を読んでから、都市地理学の面白さを覚えた。地理学は単に存在している自然と人文現象を記述するだけでなく独自の視点で観察すれば、人間社会の些細な変化から世界のダイナミックな激変まで新しい発見が十分可能であると分かった。中でも数学または統計分析を援用する計量地理学、そしてパソコンの新しい技術を用いるGIS(地理情報システム)による研究は、数学が大好きな私に地理学の新しい顔と可能性を見せてくれた。

都市部の地域構造と都市間の構造に関心を示したジャン?ゴットマンの研究に魅了されて、博士論文は統計データを利用した計量分析を施して、中国の都市システムの構造およびその変化を解明することを試みた。中学高校時代には地理に目を向けようともしなかった私が、博士学位は地理学のものだったという結果は、あまりにも予想外の展開だった!

観光学と移民研究との出合い

現地調査で訪れたイングランド?コッツウォルズ のグロスター大聖堂(2014年撮影)

博士号を取得して都市地理学研究に精進しようと思った時期に、立教大学観光学部の専任講師として採用された。これが観光学研究への出合いの始まりでもあった。観光学研究を進めるにつれ、地理学の柔軟性を実感した。地理学とは空間概念、とりわけ立地や分布や空間構造などの考え方で自然と社会を分析する学問であり、研究対象は確定せず、常に変化しつつある人間社会の新しい現象を研究することもできる。都市地理学研究で培われてきた研究法に基づき、空間概念を用いて観光現象を研究するにも非常に有効である。この時点から、従来加入していた地理学関係の学会にも参加し続け、新たに観光研究の学会活動にも携わり、両方から良い刺激を受け、悩みはあるものの独自の研究を試みるように努力しはじめた。故郷の中国雲南省麗江古城(れいこうこじょう)は1997年に世界遺産に登録されてから観光が著しく進み、外部からの経営者が殺到した。2004年3月に実施した現地調査で956軒の店舗を調査して、店舗の空間分布と経営内容のみならず、経営者の出身地と店舗家屋の所有状況も調べ、観光化の進行による地域の変容を解明した。

研究には、他者に評価され、誘われてやり始めたものもある。私は日本社会において外国人である。そのため、移民または移住に関する研究にも誘われ、日本における外国人定住化、中国における日本への新華僑送出システム、環太平洋地域における移住者コミュニティなどの科学研究助成金による研究に参加した。そこでは、帰化人口の統計データが少ない問題を克服し、帰化許可の「官報」告示制度を活用して、1948年1月1日から2009年12月31日までの帰化者46万2977人のデータを収集し、データベースを構築した上で、日本における帰化人口の時空間分布の解明を試みた。

研究の展開と出合いには偶然性が存在するかもしれないが、麗江古城の研究は自身の生活経験と現地少数民族とコミュニケーションする手段となる納西(ナシ)語の能力を生かしたもので、帰化研究は自身が帰化することがきっかけとなり、帰化の仕組みからヒントを得た。偶然の中でどこかに必然性が潜んでいるとも考えられる。

大学の研究制度を生かした研究の展開

コッツウォルズの美しい田園風景(2014年撮影)

立教大学には教員の研究を促進するための研究休暇(サバティカル)制度がある。一定の年数を勤務した教員は、1年間、教育の現場を離れて海外または国内で自身の研究に専念することができる制度であり、教員が研究を精進するために必要不可欠な充電期間となる。私はこの制度を利用して、2007年9月からアメリカのワシントン大学(シアトル市)の客員研究員として、北米の都市観光について研究した。シアトルは市域人口わずか約64万人の都市だが、豪華クルーズ船の離着港の重要なゲートウェイ機能も有し、近くにボーイング製造工場とマイクロソフト社が立地するため産業観光も盛んであり、市立図書館にみる公共施設の観光資源化、同性愛者が誇りを持って歩くプライド?パレード(Pride Parade)のイベントなど、さまざまな観光の要素と形態が調査できた。加えて、北米西部のバンクーバー、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ラスベガスでの都市観光に関する調査で得られた成果は、観光学部専門科目「都市観光論」の重要な支えとなっている。

2回目の研究休暇は、2014年9月から英国のオックスフォード大学での創造産業による都市観光の研究だった。ロンドン、マンチェスター、リバプール、グラスゴー、エジンバラなどの大都市での調査の他に、オックスフォードの近くに広がるコッツウォルズ(Cotswolds)地方での田園風景を生かした観光にも惹かれ、大都市とその周辺に立地する郊外または農村地域の関係に関心を持ちはじめた。英国では自然を保護するさまざまな制度と条例が存在することが、持続可能な観光開発の重要な基盤である。例えば、コッツウォルズ地方の美しい田園風景と豊かな自然環境は、早くも1966年に1507?の大規模な範囲で「傑出自然美地域」AONB(Area of Outstanding Natural Beauty)に登録され、1990年にはさらに範囲を2038?まで拡大し、イングランドとウェルズにおいて最大規模のAONBを有することに由来する。

観光学部では、自分の研究のほかに、専門科目だけでなくゼミの運営を通して学生との交流も深めてきた。杜ゼミは2年次生に海外ゼミ合宿、3年次生に国内ゼミ合宿があり、現地調査で国内外の都市観光および世界遺産の観光開発に対する理解を深めている。

プロフィール

PROFILE

杜 国慶

観光学部観光学科教授

【略歴】
1990年7月 南京大学地理学部経済地理?都市計画専攻卒業
1992年7月 南京大学大学院人文地理学研究科修士課程修了
2000年3月 筑波大学大学院地球科学研究科博士課程後期課程修了、博士(理学)
2000年4月~2002年3月 日本学術振興会外国人特別研究員
2002年4月 立教大学観光学部観光学科 専任講師
2005年4月 同助教授
2011年4月 同教授
2015年4月 立教大学国際センター センター長

【所属学会】
日本地理学会、日本観光研究学会、経済地理学会、人文地理学会、地理情報システム学会、都市地理学会、地理空間学会

【主要研究テーマ】
都市観光、観光地理、世界遺産観光、移民と帰化

【著書】
“Tourism and Urban Transformation” Tokyo: Rikkyo University Publication, 2007.

【論文】
The Influence of World Heritage Tourism to the Local Rural Area: The Case of Horse-Riding Sightseeing in the Villages around Lashihai Lake, Lijiang“Rikkyo University Bulletin of Studies in Tourism” 17, 2015.
「日本における帰化人口分布の時空間変化に関する考察」『立教大学観光学部紀要』第16号, 2014年
「ドバイにおける観光開発とその利害関係について」『立教大学観光学部紀要』第13号, 2011年
「都市観光に関する諸問題」『立教大学観光学部紀要』第12号, 2010年
「町並み観光地の景観構成と自然基盤に関する研究─世界遺産「麗江古城」を事例として─」『立教大学観光学部紀要』第10号, 2008年
Transition and influential elements of travel destinations of Japanese package tours in China“. International Journal of Tourism Science” 8(1), 2008.
Development mechanism of urban system in rapidly changing period in China. “Chinese Geographical Science” 17(1), 10-18. 2007.

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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